認知症のイメージ画像

高齢者の診療に際して、症状の背景に潜む心理・社会的要因を十分考慮しながら、総合的な評価を行っていく必要があります。例えば、高齢者では、難聴や視力低下といった生理的身体機能の低下、さまざまな病気に伴う心身の病的な減退、家族や友人・知人との離別や死別、退職や定年に伴う社会的孤立や経済状況の変化など、多種多様な状況が出現してきます。加齢に伴う身体機能低下、社会的な役割喪失への不安が生じ、そのような状況のもとで、心理的には、身体機能の低下と孤独を受け入れられないことが症状の出現に関わってくることが多く見られます。そのため、十分に生活歴や病歴を聴取し、精神状態や身体状況をきちんと総合的に評価していく必要があります。

めまい、頭重感、口腔内異常感、動悸、胸部圧迫感、胃部不快感、便秘、下痢、頻尿、疼痛など、身体的症状の多い高齢者が内科や整形外科、耳鼻科、泌尿器科、歯科などを受診して、身体的検査や治療を受けても症状が改善されない場合、あるいは検査結果には異常がなく原因がよくわからず、複数の病院で診てもらううちに心療内科や精神科の受診を勧められることもあります。そのような身体症状は、老年期うつ病や不安障害などの精神障害が原因であることも少なくありません。高齢者のうつ病や不安は非定型的であるため見逃されることがあり、遷延・再発しやすい傾向にあります。

老年期うつ病

身体症状を訴える65歳以上の患者の10~30%がうつ病であるという報告もあります。老年期うつ病の特徴は、気分の落ち込みよりも不安や焦燥感が目立ち、心気的な訴えや身体的不調を訴えることが多い傾向にあります。また、空虚感や絶望感、自分は無用であるといった悲観的な感情が目立つこともあります。配偶者や友人の喪失、社会的役割の喪失などの喪失体験、経済的な不安、身体機能低下なども影響します。重症例では、罪業妄想や貧困妄想、心気妄想、被害妄想などの妄想を伴うこともあります。

老年期うつ病は、さまざまな身体疾患や薬剤によるうつ状態と区別しておく必要があります(下記参照)。また、老年期うつ病はしばしば認知症に併発するうつ状態との鑑別が困難なことが多いです。老年期うつ病では、記憶機能の低下、判断力や集中力の低下を訴えることも多く、仮性認知症とも呼ばれます。一方、認知症、アルツハイマー型認知症やレビー小体型認知症の初期では、明らかな認知機能障害が目立たないうちから、気分の落ち込み、不安、興味・関心の低下や意欲低下が認められることがあります。このため、老年期うつ病と初期の認知症の鑑別はしばしば困難となります。高齢者のうつ状態が、その後の展開で認知症に進展していくことも少なくありません。

うつ状態の原因となる可能性がある身体疾患

循環器系疾患

心筋梗塞、高血圧、低血圧、不整脈、僧帽弁逸脱症など

内分泌系疾患

糖尿病、低血糖、甲状腺機能低下症、Cushing症候群、ACTH欠損症、Addison病、ビタミンB12欠乏症、悪性腫瘍など

脳神経系疾患

パーキンソン病、重症筋無力症、脳血管障害、認知症、悪性腫瘍など

呼吸器系疾患

慢性閉塞性肺疾患、悪性腫瘍など

自己免疫性疾患

SLE、橋本病、クローン病、悪性リウマチなど

うつ状態の原因となる可能性がある薬剤

副腎皮質ステロイド、インターフェロン、消化器系薬剤、降圧剤、強心配糖体、抗不整脈剤、性ホルモン剤、鎮咳剤、抗がん剤、非ステロイド系消炎鎮痛剤、抗結核剤、精神・神経系薬剤、ビタミン剤、抗生剤、抗真菌剤など。

高齢者では肝臓や腎臓の血流量が低下しており、その機能が低下しているため、薬剤代謝能力も低下しており、通常量の薬剤でも精神的な副作用(うつ状態、不安、不眠、せん妄など)が生じることがあります。

多種多様な薬を服薬している高齢者では、薬剤相互作用も起こりやすいため、できる限り必要な薬剤だけに絞り込むことや、患者自身もあいまいではっきりしない症状に対して、いたずらに投薬を望むのを避けることが望ましいと考えられます。

経堂駅前こころのクリニック
クリニック名
経堂駅前こころのクリニック
院長
田中宏明
診療内容
心療内科・精神科・老年精神科・漢方精神科
住所
〒156-0052
東京都世田谷区経堂2丁目14-10
オオゼキ経堂駅前店2階
TEL
03-5477-5560
最寄駅
小田急線 経堂駅北口より徒歩2分
休診日:木曜日、土曜日午後、日曜日、祝日
●:土曜日は9:00~15:00
※最終受付時間:午前・午後ともに終了30分前まで
診療時間 日祝
9:00~13:00
14:30~18:00